三浦綾子『道ありき・青春編』


一生の間に、何冊の本を読むことができるのだろう?
高松から東京までの新幹線の中で、ふとそんな思いがよぎりました。

 

月に1回、香川県高松市でゴスペルのワークショップを始めてから、往復の移動時間が私にとって読書タイムになりました。実は、飛行機で往復していたのですが、高松空港は小高い山頂にあるため、悪天候の時、頻繁に欠航になったり、羽田空港に引き返したりと急なスケジュール変更を余儀なくされていました。それならば時間はかかるがいっそのことと、新幹線に乗ることに。

 

健康であった時、なんと無意識に生きていたことだろう

健康であった時、なんと無意識に生きていたことだろうと、その時わたしはつくづくと思ったものだった。トイレに行くことだって、決して当たり前のことではないような気がした。歩くことも、立つことも、決して只事ではなかったのだと、わたしは思った。(p.284)

 

実家の本棚を整理して見つけた本、作家・三浦綾子の『道ありき・青春編』(主婦の友社)は、新幹線のお供になりました。この小説は、彼女が初めて書いた自伝で、長い間、病に苦しみ自殺を考えるほどに生きる意味を見失った彼女が、希望を持つ姿へと変えられていく事実の話。高松でのレッスンを終えた東京までの車中、「健康であった時、なんと無意識に生きていたことだろう」という三浦綾子の言葉に、頭を殴られた気がしました。今の自分という存在を、なんとまた無意識に生きているのだろうと。

 

ところで、私はゴスペルを教える時、両手でピアノを弾いて、足でリズムをとり、ソプラノ・アルト・テナーと順番に歌って音を教えます。目はメンバーを見て、鼻でその部屋の空気を嗅ぎ、耳でメンバーが歌う音を聴き分け、間違っていると変な顔をしたり。先日も、「先生、音が間違っているからと白目になるのやめてや。笑って歌われへんやん」と、あるメンバーに言われたところ。

私はこれらのことを、無意識に行っています。さあ、右手でピアノを弾こうとか、左足でリズムをとろうと思うことはありません。

 

ところが、2年前の2015年12月、風邪を引いたまま歌い続けて喉を酷使したせいか、声が全く出なくなりました。歌い手にとっては、致命傷。レッスンでは、ニコちゃんマークを描いたA4の紙を用意し、歌っている音程が良かった時は「ニッコリ」、その逆の時には「ガッカリ」のマークを上げました。自分でも何てレッスンだ……こんなことは2度とゴメンだと思いながら、声が出るということに「意識と感謝」をした時でした。曇り空があって初めて、太陽の存在を意識するというものでしょうか。

 

黒雲の上に輝く太陽

どんな悪天候の日であっても、その黒雲の上には必ず太陽が輝いているのだ。雲はやがて去るだろう。だが太陽は去ることはない。わたしたちは、わたしたちの太陽であるところの、神を決して見失ってはならないと、深く肝に銘じた。(p.299)

 

こういう話をすると、「ほら、いつも感謝の気持ちを持ってと言うのでしょ」と思うかもしれません。でも、私にはそれは無理だと思うので言いません。なぜなら、「今日も私はこんなことができて感謝! 」という思いはいつしか、人よりこれだけできているという「比較」を招きその結果、高慢や自己憐憫が生まれます。または「感謝の気持ちを持ちたいのにできない……でも歯を食いしばってがんばって感謝しなくちゃ」と自分に言い聞かせて、疲労困憊(こんぱい)してしまうことに。

だからむしろ、三浦綾子が言うように、太陽は去ることがないのだと、主導権を自分ではなく、太陽に任せる必要があると思うのです。

 

プラカードレッスンの日、レッスンが終わってからあるメンバーがこんなことを言ってきました。「先生が不調の今日、これまでのレッスンで一番ニッコリマークが上がっていました(笑)」。主導権を自分ではなく、太陽に任せた結果、自分もいつのまにか笑顔になっていたのかもしれません。

歌が歌えなくなった時、ピアノが弾けなくなった時、変な顔ができなくなった時、それでも太陽は去ることがない。私がどんな状況であっても、いつも陽光は暖かく照っている。闇しか見えなくても、決して闇は光に打ち勝たない。『道ありき』は今の私に、太陽である神さまにゆだねる生き方を教えてくれました。

 

冬には雪景色になる景色も、今は田園が広がっています。車窓から、そのしっかりと背を伸ばした緑色の苗を見ながら、来月も良い本に出会えることを願うひと時でした。

『道ありき・青春編』
著者:三浦綾子
ページ数:306ページ
発行年:昭和50年1月30日 第39刷発行
発行所:株式会社 主婦の友社


NOBU

投稿者: NOBU

-Gospel Singer & Director- DEUT(デュート)株式会社代表取締役。都内音楽専門学校、YAMAHA、教会などにおいてVoice Trainer、Gospel Directorとして活動した後、日本全国にGOSPELがあふれる世の中を目指しDEUTを設立。日々GOSEPL指導とコンサートに奮闘中!好きな食べ物は、インドカレー、麻婆茄子など辛いもの全般。

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